経済や市場のダイナミクスが急速に変化する中、多くの中堅企業のオーナーが事業の売却を選択しています。そして、多くの企業がプライベートエクイティ(PE)企業に売却されています。
しかし、多くの中堅企業の最高財務責任者(CFO)は、これまでM&Aを経験したことがありません。取引完了前、取引完了時、取引完了後の段階で発生する多くの一時的な技術的な会計の問題を経験したこともありません。それにもかかわらず、企業のオーナーは、これらの取引を円滑に進めるためにCFOに期待します。それぞれのステージを成功させるためには、綿密な計画と経験が必要です。特に、多くの中堅企業のCFOがキャリアの中で数回しか目にしないであろう、時価会計関連の概念については、注意が必要です。
さらに複雑なことに、CFOは2つの役割を果たします。1つ目の役割は、主に税務上の観点から売り手の最終的な会計要件を満たすことに専念することです。2つ目の役割は、新会社の会計を確立し、新旧の会社間のギャップを埋めることです。この作業は、旧会社の最終的な貸借対照表の会計処理に伴う購入価格の調整による財務上の影響を受けて、急速に複雑化する可能性があります。
ここでは、企業結合の際にCFOが直面する6つの最重要課題を紹介します。
ディールの概要を理解する
ディールの概要は、人間の解剖学のように、法的文書や経済取引の形で相互に関連する部分で構成されています。典型的なミドルマーケットの取引では1,000ページにも及ぶ文書になることもあります。それぞれの法律文書の目的を理解することは、その無数の詳細な用語を含めて、会計に大きな影響を与えるため、非常に重要です。
売り手の中には、専門家の費用を最小限に抑えたいという理由から、売却取引の前に外部の会計士を関与させないことを選択する人々もいます。その結果、取引に関連する技術的な事項が見過ごされてしまい、取引が完了しても、売り手(または買い手)は、取引完了後に購入価格を確定する際に不利になるような売買契約の定義や構造を抱え込んでしまうことがあります。
そのため、取引を進めることを決定した後は、租税構造や会計の専門知識や経験が豊富なアドバイザーを招き、購入契約書を見直すことは重要です。アドバイザーは、取引の概要を理解し、租税構造が適切に設定されているかどうかを確認し、購入価格の会計処理に影響を与える購入契約の条項が適切に定められているかどうかを評価します。評価には、会計方法、負債、営業外資産などの資産に関する重要な除外規定が含まれます。
一貫性の原則とGAAPの理解
購入契約書で指定された会計方法は、最終的な購入価格の結果に非常に重要です。
一般に公正妥当と認められた会計原則(GAAP)ではなく、修正GAAPに基づいて会計処理を行っている企業もあります。こうした修正GAAPは購入契約書の中で「一貫して適用される」会計原則とされている場合もあり、注意を要します。
たとえば、GAAPはほとんど使われない在庫や、実質的に動きの遅い在庫については、原価と正味実現可能価額のいずれか低い方で評価すべきだと規定しています(低価法)。しかし、「一貫して適用される」という用語が売買契約書に使われている場合があります。その場合、売り手が過去低価法に基づいて在庫を評価していなければ、在庫は過去の会計原則に従って計算されるべきであるということになります。すなわち、この場合、買い手は過大評価された在庫に基づいて最終的な購入価格を支払わなければならなくなってしまいます。
GAAPからの著しい逸脱が明らかになった場合、「利益の質(Quality of Earnings)に関する報告書」を作成する必要があります。これにより、どのようなGAAPの調整が必要かを示し、強化すべき分野を明らかにします。購入契約で使用する定義を決定する際には、業績報告の質を参考にすることが非常に重要です。収益の質に関する報告書で確認された調整は、「一貫して適用された」または「過去の会計慣行」からの逸脱である可能性が高いです。そのため、デューデリジェンス報告書でGAAPや過去の会計慣行からの逸脱が確認された場合、これらの項目は一般的に売買契約における特定の定義や取り扱いを必要とします。
ここでは、取引完了後のGAAP関連の紛争のリスクを最小限に抑えるための追加ガイダンスを紹介します。
見積もりの失敗
取引完了時の見積もり漏れは、買い手と売り手の間の不満の原因となります。そのため、現金、売掛金、在庫、買掛金、未払費用に関連する詳細な情報に基づいて、取引完了時の現金および正味運転資本の見積もりを行うことが重要です。
取引完了直前にハードクローズが可能であれば、それが正確な見積もりのための最もシンプルな方法です。しかし、多くの場合は実行不可能です。そうでない場合は、ソフトクローズのための正確なフレームワークを作成することが重要です。直近の月末からロールフォワードまたはロールバックできる残高の調整を含みます。CFOは、取引完了時の見積もりを詳細に記録しておくことが非常に重要です。そうすれば、最終的な買収金額の決済に使用される最終的な現金および正味運転資本の残高を決定する際に、予想外の差異を十分に説明できます。
月中カットオフ
買い手が事業を引き継いだ場合、事実上、ハードクローズを適用して、結果的に「新」会社のすべての会計原則と基礎となる会計を再構築する必要があります。取引に係る法的文書に定められた条項を遵守し、「新」会社の財務記録の中で、事業のために支払った金額を貸借対照表に反映していくことになります。この移行の準備のために、当事者は会計期間を切り離す必要があります。一方は、取引前に最新の会計処理をしなければならない「旧会社」です。もう一方は、取引日以降の会計処理をする「新会社」です。
月中のカットオフに際し、CFOの管理は非常に複雑になります。問題となるのは、取引の発効日(月末とそれ以外の日)と時間帯(終業時と始業時)を適切に特定することです。多くの場合、売り手と買い手が取引の正味運転資本の構成要素を考える際に、取引の有効期限は適切に評価されていません。
事業のキャッシュコンバージョンサイクルを理解することが重要です。例えば、月末の回収率が高く、月末の手元在庫が少ない場合、売り手は売掛金と在庫が少なくなります。そのため、正味運転資本の目標値を低くするよう交渉することは意味があるかもしれません。最低限の現金を必要とするかどうかは、売り手と買い手双方にとって重要です。取引完了前に売り手が事業から現金を全額引き出した結果、買い手が予想外の追加資金を投入しなければならなくなることがあります。この資本は、買い手からの借金の形で来る場合もあれば、外部の貸し手からの借金の形で来る場合もあります。また、ホールドバックやアーンアウトなどの繰延購入価格が、取引完了時に資金調達した株式や負債から除外されることもあります。これにより、「新」会社には、後日、負債に充当するためのプラスのキャッシュフローを生み出すよう、大きなプレッシャーがかかります。
また、在庫も課題の一つです。実地棚卸は、取引終了時または取引終了日にできるだけ近い時期に実施するのが最善の方法です。中堅企業の中には、強力な実地棚卸管理を行っており、サイクルカウントや完全な実地棚卸の監視を日常的に行っているところもあります。そのような場合には、月半ばの日付はほとんど影響しません。しかし、ビジネスの売り手が日常的に実地棚卸の監査を行っていない場合、月半ばに取引完了すると、問題が複雑になります。売り手は、取引日における在庫の移動と関連する締め切りを適切に会計処理する必要があります。取引完了時に実地棚卸が行われない場合は、取引完了日に近い実地棚卸日から在庫のロールバックまたはロールフォワードを行う必要があります。一般的に、会計チームは在庫分析を行い、最終的な在庫バランスを証明することが求められます。ほとんどの実地棚卸の監査は月末または年末に行われるため、売り手、買い手、経営陣、外部の会計士の間で、さらに高度な計画が必要となります。正確な永久在庫記録がない場合、アクティビティを決算日まで移動する必要があります。そのため、正しい期末在庫額を導き出すのに相当な時間がかかります。
取引完了後に会計上の問題に対処すると、多額の購入価格の調整、追加の専門家の費用、正確な内部財務諸表の発行の遅れ、監査用財務諸表の発行の遅れなど、CFOにとって多くの業務上の課題が生じます。
自社の数字を知る:新しいCFOへの役割の移行
多くの中堅企業のCFOにとって、将来を見据えた戦略策定活動への関与は限られています。しかし、会社の所有者が変わると、特にプライベートエクイティ企業が買収した企業では、CFOはより大きな役割を担うことになります。売上高、利益率、顧客別、製品ライン別、地域別の収益など、数字を熟知し、お客様との関係を築いてビジネスを推進することが求められています。これらの分野に精通したCFOは、買い手が期待している組織全体の変革を促進するのに適した立場にあります。
移行を扱うCFOにとって、取引完了後の期間は、財務をマスターすることと、100日プランを実行することに焦点を当てるようにします。新しいオーナーが導入したいと考えているすべての戦略的イニシアチブをマッピングし、統合します。CFOは、リスク保証、オフバランスシート/新規運転資金の準備、貸し手への財務報告、価値創造の報告、プライベートエクイティグループや取締役会への対応などに集中すべきです。しかし、取引完了後のバランスシートや運転資金など、過去にさかのぼって注目すべき項目に気を取られていると、不可能ではないにしても、このような作業を行うことは難しいことになります。
GAAPと税務会計の違いを理解する
取引に関与する企業の法的構造や、資産や株式の売却などのそれぞれの取引形態によって、GAAPと法人税の会計結果が大きく異なることがあります。中堅企業のCFOは、取引が完了した後、GAAP会計方式に大きくこだわるのが一般的です。また、CFOは、取引の意味合いや税務会計方法への影響、「取引完了前期間(pre-close period)」、「ストラドル期間(straddle-periods)」、「取引完了後期間(post-close period)」をカバーする税務申告書をめぐる法律用語や経済用語を学び、理解することが重要です。
GAAP方式と税務会計方式の両方に対応するためには、かなりの数の管理方針や会計方針の決定が必要となります。取引の初期段階で税務とGAAPの専門アドバイザーと協力することで、意思決定プロセスを合理化し、税務とGAAPの会計方法の違いを明らかにし、取引完了後にその違いを追跡する枠組みを確立できます。この分野は複雑なので、帳簿上の会計方法と税務上の会計方法の違い、取引完了前、取引完了後、ストラドル期間の税務申告の責任者、提出されるそれぞれの税務申告書、それらの税務申告書を完成させる責任者(買い手や売り手など)をまとめたマトリックスを作成することが有効です。
熟練したアドバイザーを迎えることの重要性
スムーズな取引完了を実現し、100日計画を軌道に乗せるためには、企業結合の両当事者に経験豊富なチームを導入し、取引関連の問題点を洗い出すことをお勧めします。また、取引でどのような問題が発生するかを予測し、それらのリスクを軽減するために売買契約を調整することをお勧めします。
プラントモランのリスクアドバイザリーおよび会計サービスチームは、企業側とコンサルティング側の経験をうまく組み合わせています。弊事務所のチームメンバーの多くは、臨時のCFOや監査役を務めた経験があり、「ディールをリードし、まとめていく」ということがどういうことかを理解しています。そのため、新たに買収した企業が直面する課題を解決するための実践的なアプローチを準備できます。弊事務所は、期首貸借対照表や正味運転資本のような一時的な会計項目の意味合いを理解しており、監査可能な成果物を提供します。弊事務所の専門知識はそれだけではありません。多くの企業の取引完了プロセスを合理化したことで、経営陣がビジネスを推進するための意思決定に必要な財務情報を容易に入手できるようになりました。弊事務所は、企業が貸し手レポートの要件を満たすことを支援するだけでなく、収益の向上や費用削減などの付加価値分析をご提案することもできます。詳細につきましては、ぜひお電話ください。